「イリーナ?」

 立ち尽くすイリーナを見つけたオニキスが駆け寄る。ちょうど帰宅したようだ。

「こんなところでどうした? まさか、俺の出迎えか!? そうかそうか、兄は嬉し――」

「兄様馬車は!?」

 感動の出迎えもそこそこにイリーナはオニキスを急かす。するとオニキスは何故か得意げな表情をした。

「聞いてくれイリーナ! 今日は俺も歩いて帰ったんだ。アレンが話していた近道とやらを試してみたんだが、これが思いのほか早く着いてな!」

「どうして今日に限って徒歩なんですか!」

 いきなり怒りを向けられたオニキスは訳も分からず妹に謝った。

「な、何が気に入らなかったんだ? イリーナ?」

「兄様。抱っこして下さい」

 イリーナは両手を広げて兄に強請る。
 オニキスは突如として与えられた至福の権利に疑問を抱くことなく妹を抱き上げた。普段は抱き上げようとしても恥ずかしがってこの腕に納まることを良しとしない妹が自ら……感動に胸が震えていた。幼女の身体ではあるが、オニキスは妹の成長をかみしめる。

「兄様、私を学園まで連れて行って下さい!」

「学園? なあイリーナ。俺は今帰って来たんだが」

「いいから早く! 兄様、ごうっ!」

 ばしばしと背中を叩いて急かされたオニキスは訳もわからず走った。妹に喜んでほしいがために、来たばかりの道を全力で。