「ねえ名前は? 私はライラ。貴女は?」

 恐るべきコミュニケーション能力の高さは流石主人公だ。

「いっ、……リナ」

 素直に名乗ってどうする。答えてから、あまりに安易だったのではと後悔した。

「リナちゃんかー。このお屋敷の子?」

「庭師の娘なの!」

 イリーナはジークの設定を借りてやり過ごすことにした。

「そうなんだ。ねえ、リナちゃんは……ああっ!?」

(さすがにイリーナだってばれた!?)

 何か言葉を間違えただろうか。ライラの驚きは凄まじい。かと思えばライラはイリーナの手を掬い上げた。

「こんなに小さな手が土まみれに……リナちゃん、一人で草むしりさせられてるの? 毒草の栽培までさせられるなんて……イリーナね?」

 ライラの鋭い眼差しがイリーナを射貫いた。

(ひえっ! やっぱりばれてる!?)

「あの女に命令されてるんでしょ?」

「命令? あの女?」

「私、全部知ってるの。だから隠さなくていいわ。あの女、イリーナよ」

(わ、私?)

「あの女、学園に来ないと思ったらこんなところで幼女に毒草を栽培させて。さすがは悪役令嬢、やることが陰湿で非道よ!」

 イリーナを悪役令嬢と言い切るライラはおそらく転生者だ。ただしどういった意図があるのかはまだ読めない。

(登校してこないから心配して訪ねてきた、とか!)

「心配しないで、私が貴女を助けてあげる。私ね、イリーナを引きずり出して罪を償わせるつもりなの。今日はその様子見に来たんだけど、まさかこんな酷いことが行われていたなんて!」

(え――……)

 これで確定してしまった。主人公ライラは転生者で悪役令嬢イリーナを敵視している。つまりイリーナの敵だ。

「私もあの女のせいで迷惑してるんだよ?」

 だから私たちは仲間だよとライラはイリーナ(本人)に訴えた。

「そ、そうなの?」

 声は裏返っていないだろうか。緊張しながらもイリーナは質問してみることにした。ライラはよほど思うところがあるのか大きく頷く。

「そうなの! 苦労してるんだよ、本当に……。だからリナちゃんも諦めないで! 今に私がこの生活から救ってあげる。どうせイリーナは部屋でふんぞり返って贅沢三昧。使用人をこき使って、いびってるんでしょう? あ! 病弱なんて言われてるけど、本当は人前に出られない姿になってるのかも。リナちゃん、何か知らない?」

(遠からずも当たってる! 悪役令嬢、幼女になってる!)

 しかしどこから誤解だと言えばいいのか、すでにツッコミが追いつかない。だがここで名乗りを上げるつもりはない。