「……そうか。無理をさせたな。一人にしてすまない」

 ファルマンが原因であることはアレンも気付いているだろう。言うなりアレンは再び抱き上げてくれた。

「アレン様は悪くありません。私が怖がりなだけです」

 元々リンゴ飴は持ち帰れるように包まれていた。イリーナの手に握られそれは美味しそうな光沢を放っている。さっきまではこの町並みも同じように輝いて見えたのに、それが遠い昔のようだ。

「アレン様」

「どうした?」

 小さな呟きにもアレンは気付いてくれた。賑わいの中で言葉を聞き逃さないように注意を払ってくれる。

「今日、楽しかったです。本当ですよ。ありがとうございました」

「それは良かった。だが、礼ならタバサに言ってくれ」

「タバサに?」

「タバサから手紙が来た。お嬢様が困っていると思うので助けてほしいとね。それに俺は、君を守れなかった」

 アレンはイリーナの傍にいなかった自分を責めようとしていた。でもそれは違う。

「そんなことありません。アレン様はちゃんと守ってくれました」

 ファルマンを追い払ってくれたのはアレンだ。アレンの姿を目にしてどれほど安心しただろう。

「またいつか、私がもう少し強くなれたら……外へ連れて行ってくれますか?」

「もちろんだ」

 本当にそんな日が来るかはわからないけれど、今は幸せな思い出だけを抱えていたい。
 アレンは無事にイリーナを守り抜き、家まで送り届けてくれた。