「勝手に済まない。どこかにお前が元に戻る手がかりがあるのではと思ってな」

「探してくれたんですか?」

 明日も仕事があるのに夜遅くまで、それも一人で資料に目を通してくれていた。破棄した身としては申し訳ないばかりだ。

「何も得られはしなかったがな。情けない話だが、私ではお前の域には届かない。お前は……」

 険しかった資料を眺める眼差しがイリーナに向けられて優しくなる。

「お前はこんなにも魔法の才を秘めていたのだな」

「父様?」

 父親から褒められた。それを理解はしているが、どうも頭が現実として受け止めきれていないらしい。

「すまなかった。イリーナ」

「どうして父様が謝るんですか?」

「私はお前のことを何も知らずにいた。お前が部屋に閉じこもってから、私は落胆したんだ。随分と臆病な子に育ってしまったとな。それも私たちが過度な期待を押し付けすぎたせいだと後悔した。だから好きにさせてやろうと思ったんだ」

 そんな風に、考えてくれていたのか。

「だが実際はどうだ。この部屋の存在を知らされて驚いた。お前はこんなにも素晴らしい魔女だった」

「父様、褒めすぎですよ」

「我が子の成長を褒めて何が悪い。私は誇らしい。お前という娘がな」

 優しく笑うローレンを前に、イリーナは信じられないものを目にしている気分だ。

「それに……食事中も思っていたが、お前はこんなにも愛らしかったのだな。もっとあの頃のお前と向き合えていればと悔いるばかりだ。まさかこのような形で願いが叶うとは思わなかったが……。ところでお前はこんな時間にどうした?」

「明かりを消し忘れていたことを思い出しました」

「それなら私が消しておくから安心するといい。子どもは寝る時間だ。早くお休み」

「はーい……」

 幼女スマイルで部屋を出ようとすると、ローレンはぎこちなく手まで振ってくる。

(何、みんなどうしちゃったの!? 何かおかしなもの食べた!?)

 幼女になったその日からイリーナの生活は一変した。みんながイリーナを構うようになったのだ。