知識を得ると同時にイリーナには平行して行っていた計画がある。屋敷の掌握だ。

 まずはタバサの協力を得て身の回りの世話をしてくれるメイドたちと親しくなった。家族にはよそよそしいが、幼いイリーナが笑顔で声を掛ければ彼らも悪い気はしないだろう。こう見えて中身は大人の気遣いの出来るイリーナだ。仕事に励む姿を認め、褒め、ねぎらいの心を持って接すれば仲良くなるのは容易かった。
 年頃のメイドには化粧の仕方を教えたり、服装のアドバイスをする。美味しいお菓子の話に花を咲かせ、小さなことから積み重ねていけばイリーナはメイドたちの間で人気を博していった。

 メイドたちとの交流を深めたイリーナはまるで道場破りの勢いで厨房を訪ねた。かつてのカンを取り戻すためにも料理がしたかったのである。
 無論、料理長には危ないからと反対されたが、正確無比な手つきで目にもとまらぬみじん切りを披露すればみな大人しくなった。
 高速で材料を刻み、手早く炒める。タバサに入手してもらったスパイスを調合し、じっくりと鍋で煮込んでいく。繊細な作業を完璧にこなしたイリーナは見事カレーな作り上げた。
 異世界初のカレーはみなで美味しくいただき、またしてもイリーナはひっそりと屋敷での地位を確立していく。
 仕事と社交のため家をあけてばかりの両親、王子の学友として城にまで通う兄。かたや引きこもり一日中家にいるイリーナ。どちらが彼らとの仲を深められるかは火を見るより明らかだ。

 順調に屋敷を掌握したイリーナは、無邪気な笑顔と肩叩きによって懐柔した執事からの正確な情報提供により両親の留守を狙って行動を開始した。この計画は家主には極秘に行われることが望ましい。

(子どもの遊びだと思われたくないもの)