その宣言通り、アレンは定期的にバートリス家を訪ねるようになった。元々オニキスに用がある時は訪ねていたが、以前よりも頻度は増したように思う。それはオニキスへの訪問であったり、イリーナ個人を指名されることもあった。
そのうちの何度かは体調が悪いと言って誤魔化したが、散歩中や読書中に襲撃されては逃げ場がない。結局イリーナは常に髪飾りとともに過ごすようになり、いつしかタバサも指示を出す前に慣れた手つきでセットするようになっていた。
「今日も本を読んでいるのか。イリーナは勉強熱心だな」
何故向かいの席に座る。何故話しかけてくる。言いたいことはたくさんあるのに、見つめられているだけでも心臓に悪い。
「たくさん勉強しないといけないんです」
だから早く帰って欲しいと訴えた。
「オニキスから君が部屋に閉じこもって出てこないと聞いた。部屋でも本を読んでいるのかな?」
「気分の良い時はですけど」
本当はずっとだけれど、体調が悪いという設定も忘れてはいけない。
「そんなに急いで学ぶ必要はなと思うけどね。俺たちはいずれ学園に通うことになるんだ。学園でも魔法は学べる」
「私には時間がないんです」
薬の開発に残された猶予は十七歳、魔法学園の入学式までだ。
「だが今この時も一度しか訪れはしないよ。同じ年頃の令嬢たちは外で遊んでいるけれど?」
「アレン様。父様と母様に何か言われたんですか。もしくは兄様に?」
引きこもるイリーナを見かねて両親がアレンに頼んだのかもしれない。たとえば娘を外に連れ出してほしいとか。アレンのいうことなら聞くと思われているのなら心外だ。
けれどアレンの反応には手ごたえがない。
「いや、何も。ただ君のことが気になってね」
「遊び相手が欲しいのなら他を当たって下さい」
「俺は遊び相手が欲しいわけじゃないよ。君のことを心配しているんだ」
「心配されるようなことはありません。ここにいれば私は安全なんです」
「外に出たいとは思わないの?」
「思いません。外は、怖いので」
「怖い?」
「危険がいっぱいなんです」
諦めさせるためだからと情けないことを言ってしまった。だが問題はないだろう。いずれアレンもイリーナに飽きて姿を消すはずだ。お見舞いの手紙が一枚、また一枚と減っていったように、アレンもそのうちイリーナを訪ねることをやめるだろう。
「ならいつか、外に出たいと思う日が来たら俺を呼んで」
「どうしてですか?」
「外は怖いんだろう? 怖いものから俺が守るよ」
目を丸くするイリーナにアレンが微笑み念を押す。本気か嘘かを読ませない笑みはこんな時に厄介だ。どう受け取ればいいのかまるでわからない。
「大丈夫です。思いませんから」
けれど少し冷静になって考えればわかる。きっとそんな日は訪れない。だからイリーナはいつもと変わらない調子で答えた。
そのうちの何度かは体調が悪いと言って誤魔化したが、散歩中や読書中に襲撃されては逃げ場がない。結局イリーナは常に髪飾りとともに過ごすようになり、いつしかタバサも指示を出す前に慣れた手つきでセットするようになっていた。
「今日も本を読んでいるのか。イリーナは勉強熱心だな」
何故向かいの席に座る。何故話しかけてくる。言いたいことはたくさんあるのに、見つめられているだけでも心臓に悪い。
「たくさん勉強しないといけないんです」
だから早く帰って欲しいと訴えた。
「オニキスから君が部屋に閉じこもって出てこないと聞いた。部屋でも本を読んでいるのかな?」
「気分の良い時はですけど」
本当はずっとだけれど、体調が悪いという設定も忘れてはいけない。
「そんなに急いで学ぶ必要はなと思うけどね。俺たちはいずれ学園に通うことになるんだ。学園でも魔法は学べる」
「私には時間がないんです」
薬の開発に残された猶予は十七歳、魔法学園の入学式までだ。
「だが今この時も一度しか訪れはしないよ。同じ年頃の令嬢たちは外で遊んでいるけれど?」
「アレン様。父様と母様に何か言われたんですか。もしくは兄様に?」
引きこもるイリーナを見かねて両親がアレンに頼んだのかもしれない。たとえば娘を外に連れ出してほしいとか。アレンのいうことなら聞くと思われているのなら心外だ。
けれどアレンの反応には手ごたえがない。
「いや、何も。ただ君のことが気になってね」
「遊び相手が欲しいのなら他を当たって下さい」
「俺は遊び相手が欲しいわけじゃないよ。君のことを心配しているんだ」
「心配されるようなことはありません。ここにいれば私は安全なんです」
「外に出たいとは思わないの?」
「思いません。外は、怖いので」
「怖い?」
「危険がいっぱいなんです」
諦めさせるためだからと情けないことを言ってしまった。だが問題はないだろう。いずれアレンもイリーナに飽きて姿を消すはずだ。お見舞いの手紙が一枚、また一枚と減っていったように、アレンもそのうちイリーナを訪ねることをやめるだろう。
「ならいつか、外に出たいと思う日が来たら俺を呼んで」
「どうしてですか?」
「外は怖いんだろう? 怖いものから俺が守るよ」
目を丸くするイリーナにアレンが微笑み念を押す。本気か嘘かを読ませない笑みはこんな時に厄介だ。どう受け取ればいいのかまるでわからない。
「大丈夫です。思いませんから」
けれど少し冷静になって考えればわかる。きっとそんな日は訪れない。だからイリーナはいつもと変わらない調子で答えた。



