翌朝、タバサが朝の支度のために部屋を訪れる。

「お嬢様、本当に外にはお出にならないのですか?」

「もちろんよ。父様たちには気分が悪いと伝えておいて」

「かしこまりました」

 タバサの話ではパーティーで派手に倒れたこともあり、イリーナの希望はすんなり受け入れられたという。

「では少しでも気分が晴れますように、優しい香りの茶葉を手配します」

「ありがとう」

「それとお嬢様、お嬢様宛に荷物と手紙が届いております」

 タバサが背後のカートから取り出したのは見覚えのある箱だった。

「これって、まさか……」

「王子殿下からのお届け物にございます」

「ひいっ!」

 悲鳴を上げたイリーナはベッドの上を這って逃げた。

「な、なんで、私、送り返してって言ったでしょう!」

「はい。ですからわたくしは完璧に真心込めての梱包作業を施した後、可及的速やかに発送して参りました。そして即日当家に届けられたのがこちらになります」

「返してきて!」

 見なくてもわかる。その中身が何であるかなど。

「かしこまりました。それともう一点、こちらはご友人方からのお手紙でございます」

「友人?」

 そのどれもがパーティーで倒れたイリーナを気遣うものだった。

(侯爵家の娘ともなればご機嫌取りが凄いわね)

 こんなに手紙をもらうほど親しい相手はいなかったはずだ。この分では返事を書くだけで一日が終わってしまう。時間は無駄に出来ないと、イリーナは潔くベッドから抜け出した。

「タバサ、今日のお父様たちのご予定は?」

「旦那様と奥様でしたらご親戚の方々をともない王都観光のご予定です。坊ちゃまもご一緒されるそうですよ」

「そう。家には誰もいなくなるのね」

 まずは手紙の返事を書く。その後もやることはたくさんあるためのんびりはしていられない。
 ペンを手に机に向かったイリーナは、タバサの補助で黙々と手紙の返事を書き続けた。