「アレン様は人気者ですもの」

 こうして言い切れるのはアレンに心が傾いていない証拠。それでいいとイリーナは自分を褒めたくなった。

「学園への入学はどうされるのですか? バートリス家の方は皆様学園に入学されるのがしきたりと伺っております。お嬢様には酷な物言いではありますが、いつまでも子どものままというわけにはいかないのですよ?」

「わかっているわ……」

 子ども相手だというのにタバサがここまできつく言うのはイリーナを想ってのことだろう。本当にそれでいいのかと何度も問いかけてくれる。だからイリーナも素直に耳を傾けた。実際、タバサの言葉は何も間違ってはいない。

(タバサの言う通り、いつまでも子どもではいられない。その通りだけど……いっそ、ずっと子どものままでいられたら……ん?)

 何か今、大切なことが頭をよぎった気がする。 

(ずっと子どもでいられたら?)

 確かめるように繰り返す。

 子どもにはアレンの婚約者はつとまらない。
 子どもなら魔法学園には通えない。
 子どもに悪役令嬢が出来るわけがない!

 その時イリーナは閃いた。

(なら子どもになればいいんじゃない?)

 衝撃だった。なんて簡単なことだったんだろう。

「これだ……」

「お嬢様?」

「なんでもないわ。そうだタバサ、もう一つお願いがあるんだけど。この髪飾りをアレン様に返しておいてほしいの」

「かしこまりました」

 タバサに髪飾りを手渡したことでイリーナはようやく肩の力が抜ける。ほっと胸を下ろして食事に手を伸ばすとイリーナのためにと作られた料理はどれも美味しく、少しだけ幸せな気持ちが戻り始めていた。