【電子書籍化】悪役令嬢は破滅回避のため幼女になります!

「ということがありまして」

「うわー……」

 ライラは思った。家の厨房を開けたらコスプレしたアレンがいるって恐怖だよね、と。純粋にゲームをプレイしていた頃なら「コスプレありがとうございました!」と思ったが、あの事件以来怖ろしくてアレンの顔がまともに見られない。口にするのも怖ろしかったので色々呑みこんで「うわー……」とだけ言っておいた。
 すっかりライラの眼差しは哀れみだ。しかしイリーナの嘆きはまだ終わらない。

「あの人、次の私の誕生日には泊まりこみでケーキを仕込むって言うんですよ!」

「え?」

「私が高価なものは止めて下さい。形に残るものは止めて下さいって言ったから、昔から誕生日にはお菓子をくれるんだけど、今年は手作りするからって張り切ってて……」

 それはむしろ悪役令嬢や主人公がとるべき行動ではないだろうかとライラは思う。実際少し前の自分もやろうとしたが、アレンと同じ思考回路であることが怖かったので深く考えるのはやめた。

「えっと……それって、美味しいの?」

 純粋な疑問にイリーナは即答する。

「お店に並んでたら私は買う!」

 私も食べてみたいとは怖くて言えないライラであった。

「それからアレン様がお菓子作りに目覚めたという情報をどこからともなく聞きつけたリオット様がお菓子作りでも張り合うようになって」

「今そんな面白いことになってるの!? というかライバル設定どこで発揮してんのよ!」

「そうなんですよ。自分の方が美味しいだろうとお菓子を手に迫ってきて、勝手に私を判定係にしてくるんです。そのせいもあって静かなところを探していました」

 リオットはアレンをライバル視しているという設定だが、まさかお菓子作りでまで張り合ってくるとは思わないだろう。もう気が済むまでここにいればいいと、流石にライラも同情してくれた。

「もともと器用な二人はみるみる腕を上げていて、私が作ったお菓子なんて霞むほどですよ……もう王子と次期公爵でお店でも開けばいいと思います……」

「すご……というかイリーナってリオット様と仲いいの? ゲームだと相性悪かったのに」

 ゲームでのイリーナはアレンに勝てないリオットを馬鹿にし、リオットもアレンに夢中なイリーナを嫌っていた。

「もちろん最初は顔を合わせる度に嫌みを言われていましたよ。でもある時気付いたんです。ほら、私たちってアレン様に振り回され仲間でしょう? アレン様への愚痴で意気投合するようになりまして」

 今まで気づかなかっただけで、二人はアレンに振り回されているという共通の悩みを持つ仲間だった。一度気付いてしまえばその愚痴は止まらない。気兼ねなく王子の愚痴を言いあえる相手は限られているのだ。

『わかるかイリーナ! 君もあいつには苦労させられているんだな!』

『お気持ちお察し致します。リオット様!』

 そう言いながら固い握手を交わしたものだ。真剣な顔で長時間語り合い、張本人であるアレンに引きはがされたことは記憶に新しい。