「貴女と一緒ですよ」

 イリーナは手にしていたかごを掲げる。ライラの手にもシンプルなロールパンが握られているのが見えた。

「侯爵令嬢なんだから、食堂で食べればいいじゃない」

「食堂は落ち着いて食べられないんですよ。ほら、私は静かにしていますから、気にしないで下さい。隣、失礼します」

「ちょっと!」

「ベンチは一つしかないので」

 イリーナは不満そうなライラを無視して端に腰を下ろす。そのまま無言で食事の支度を始め、静かにすることを主張すれば見逃してくれたようだ。反対側のできるだけ遠くに座ったライラもパンをかじり始めた。しかしそれも少しの間だ。

「~~っ! ちょっと、何よそれ!」

「はい?」

 話しかけてはいけないルールではなかったか。しかもいきなり喧嘩腰である。無視をするとさらに厄介なことになりそうなのでイリーナは大人しく話を聞いた。

「お弁当、どうしてそんなに美味しそうなのよ!」

「そうですか?」

 いい匂いがすると抗議したライラは遠慮なく身を乗り出してきた。

「このサンドイッチ一口サイズで可愛いし、唐揚げの衣はさくさく。卵焼きは綺麗な色でふっくらしてるし、彩りのサラダまでおしゃれ。というか唐揚げって、それ前世の料理!?」

「早起きして作ったので、褒めてもらえるのなら遠慮なく褒められますが」

「イリーナが作ったの!?」

 驚きながらもライラの視線は完全にイリーナの弁当に固定されていた。

「食べますか?」

「な、何よ。私のこと、餌付けするつもり? そうはいかないんだから」

「食べないならいいです」

 イリーナは遠慮なく目の前で唐揚げを食べようとした。食事場所を求めて彷徨い、こちらも空腹なのだ。すると必死の形相で手を止められる。

「嘘です待って、食べたい! 唐揚げ大好きなの、前世の料理が恋しい!」

「どうぞ」

 前世の料理が恋しいと言われては放っておけない。具なしのパンだけで済ませようとしているライラの栄養面も心配なのでイリーナはかごごと差し出してやった。恋しい気持ちはイリーナの想像よりも大きいらしく、ライラは遠慮なく食べ始める。

「うっ、美味しい……! 悪役令嬢の癖に料理できるとかチート!」

「普通に料理しただけですよ。前世では料理学校に通ってたんです」

 不本意そうな顔をしながらもライラはしっかり唐揚げを完食している。イリーナは気持ちのいい食べっぷりを見ながら自身も早起きした成果を堪能した。
 食事を終え、一息ついたところで黙っていたライラが口を開く。