「翔子!」

人混みの中で、潤が手を振っていた。
潤にしては珍しいブルーのコートがよく似合う。
それだけで、私は舞い上がる程嬉しくて、潤の元へ走って行った。



「ごめんね。待った?」

「いや、僕もついさっき来たところ。
それにまだ待ち合わせの時間になってないし。」

「あ、本当だ。」

私達は顔を見合わせて笑った。



土曜日が来るのが、待ち遠しくてたまらなかった。
この日のために服を新調し、美容院にも行った。
最近潤に会った時はいつも普段着で、おしゃれをしてなかった。
だから、せめて今日は、いつもよりマシな私を見せたかったんだ。
でも、デートでもないのにおめかしして行くっていうのも変だから、あくまでも普通っぽく見えるおめかし…
要するに、ただの自己満足みたいなものだけど。



「あれ?もしかして、髪型変えた?」

「えっ!?か、変えてないけど…」

髪をカラーリングして、毛先を少しカットしてもらっただけなのに、そんな小さな変化に気付いてもらえたのはすごく嬉しかった。



それに……
今日は、潤ひとり。
この間の彼女さんは来ていない。
つまり、今日は私が潤を独り占め出来る。



そう思ったら、嬉しくてたまらなかった。
たとえ、これから何か辛いことが起きたとしても…
私にはきっと乗り越えられると思える程に。