「愛美…これを……」



必死に涙を堪える私の前に、亮太が小さな箱を差し出して…
そして、ゆっくりとその蓋を開いた。



(え……)



そこに入っていたのは、キラキラと輝くダイヤの指輪。
亮太は、私の左手を掴んで…



「や、やめて!」

私は亮太の手を払い退けた。



「愛美…どうか受け取って欲しい。」

「何言ってるの?
あなたが結婚する相手は私じゃないでしょ!
私……知ってるのよ。」

私がそう言うと、亮太は目を大きく見開いて…



「愛美…もしかして、僕の縁談を知って…それで…」

私にはもう何も言えなかった。
何か少しでも話したら、涙がこぼれてしまいそうだったから。



そう…私が亮太と別れる決意をしたのは、亮太に、社長の娘さんとの縁談が持ちかけられてると聞いたから。



亮太は仕事も良く出来るし、人間的にもとても良い人だ。
早くにお父さんを亡くし、女手一つで彼を育ててくれたお母さんに家を建てて、楽な暮らしをさせてあげたいっていつも言っていた。



社長の娘さんと結婚すれば、その夢はすぐにでも叶うだろう。
ここは何としても私が身を引かなくてはならない。
彼は優しい人だから、私に気を遣うかもしれないから。



いや、そうじゃない。
私はきっと怖かったんだ。
彼に「別れて欲しい」って言われるのが怖かったから、だから、自分から身を引いたのかもしれない。
私はプライドも高いから…