柔らかで優しい微笑み…
そうだ。
僕は、今、こんなに素敵な人と一緒にいるんだ。
翔子のことなんて、気にすることはない。



「大西さん…あの、愛美さんとお呼びして良いですか?」

「え?ええ、もちろんです。
じゃあ、私も……広瀬さん、お名前は…」



『潤……』



最近、名前を呼ばれたことは久しくなかった。
僕の名前を呼び捨てにするのは、親と翔子だけだから。



「広瀬さん……?」

「あ、す、すみません。
……潤です。」

「潤さん…じゃあ、これからはそう呼ばせていただきますね。」

「はい。」



自己紹介したのに、愛美さんは、僕の名前を覚えていなかった。
まぁ、そうだよな。
愛美さんが僕に好意を…いや、少なくとも関心を持っていたなら、名前くらいは覚えてただろうし、カップルにもなってただろう。



でも、今、こうして一緒にいて、僕の名前を訊ねてくれたんだから、良しとしなきゃな。
それだけでも、十分有難いことだ。
愛美さんは、僕みたいに地味で冴えない男には、もったいないような人だもの。



「愛美さん、甘いものはお好きですか?」

「はい、好きですよ。」

「デザートを何か食べましょう。」

「そうですね。じゃあ、マチェドニアなんていかがですか?」

「……はい。そうします。」

マチェドニアなんて知らないけれど……デザートなんて、なんだって良いんだ。