言う、言わない。
 他人事ならば簡単に思えるその二択は、己に課せられた途端、何よりも重いものに成り果てる。

「あ、ねぇ、海鋒くん」
「ん、うん?」
「そこの公園で、少しお喋りしない?」

 一瞬とはいえ大きな声をあげてしまったことと、勉強が既に終わっていたことも相俟って、「俺、送るよ。帰ろう」と彼女と共に図書館を出た。
 見てしまったことを彼女に話すにしても、図書館内では話せるような内容ではないし、話すならば人目のない場所がいい。

「……あー……でも、」
「ね? ジュース、奢るよ」

 だけど俺は、彼女にそれを告げる覚悟ができないでいる。分かってる。俺の見たものが浮気だという確証はないしても、月島さんと樋爪の仲をギクシャクさせる材料には十分なりえるってことは。それは俺にとって、とんでもなくチャンスなのだということも。

「……や、樋爪に怒られそうだからやめとく」
「将牙は別に怒ったりしないと思うよ……?」
「……怒らなくてもさ、いい気はしないだろ? だから、やめとく。ありがとな、気持ちだけもらう」

 分かってる。そんなことは痛いくらいに。でもやっぱり、それ以上に、彼女が辛い思いをするのが嫌だった。悲しませたくなかった。彼女には笑っていて欲しいから。
 それでもきっと、多少の欲が抑えきれずに滲み出てしまっていたのだろう。「今回限りにするから……ね?」と普段の彼女からは考えられない強引さでもって、袖を掴まれ、容易に振り払える力加減で公園内へと連行されてしまう。