何でいきなり家に連れてこられて、家庭の事情とやらを説明されたのか分からないけれど、頭がパンクする前に帰った方が良さそうだ。
ソーサーにカップを戻し、じゃあそろそろ俺は、と言いかけたその時、樋爪が月島さんを呼んだ。
「清花、茶ァ」
「え……おかわり?」
「喋ったら喉乾いた」
「もお……いれてくるけど、海鋒くんに意地悪しないでよ?」
「しねぇよ」
「本当かなぁ」
「ほぉ、また疑うんか」
「疑いません! もお!」
少しむくれながらも、ティーカップを持って月島さんは部屋を出る。
やべぇ、タイミング逃した。いやでも別にもう帰ってもいいはずだと樋爪へと視線を向ければ、いつからこちらを見ていたのか、がっつり互いの視線がぶつかった。
「俺らが母親の腹にいるときに親が離婚した」
「っへ!?」
「まぁ産むこと自体に迷いはなかったっつってたけど問題は親権やら住むとこやらなんやらで」
「え、や、」
「双子云々関係なしに産まれたばかりの兄妹を引き離すのは忍びない、けど離婚した相手と同じ家には住めない住みたくない、で、色々検討した結果が今のこれだ」
「お……おう、」
「理解したか?」
「へ? ああ、まぁ、お前や月島さんがすげぇ愛されてんのは分かった」
「は?」
「だって出来ねぇだろ。いくら子供のためとはいえ、こんなの。ってか産まれたばっかで何も知らねぇんだから、って大体の人が思うような気がするし……やっぱ愛されてるって、樋爪も、月島さんも」
唐突に喋りだした樋爪に一瞬、疑問符が浮かんだけれど、さっきの会話に出てきていた【親の都合】とやらをかいつまんで話してくれたのだろう。「理解したか?」とわざわざ確認するあたり、俺の脳みそがショートしないように分かりやすい言葉にしてくれていたに違いない。
何だよ、ちょっといい奴じゃんこいつ。ほんのちょっと見直して、友達になれそうかもなんて思った瞬間、ふははっと樋爪は何故かふきだして、悪戯を思い付いた小学生のような笑みを俺へと向けた。
「お前、変な奴だな」
前言撤回。やっぱ腹立つわ、こいつ。



