「ってぇ!」
「一回で理解しろよ低能」
「だから何ですぐ暴力ふるうの!?」

 一瞬、星が舞った。
 次の瞬間には、「ごめんね、大丈夫?」って女神さまが叩かれたところを優しく撫でてくれたから、樋爪の一撃で死んだのかと思った。

「っせぇな。だいたい、お前がさっさとこいつに事情説明してりゃこんなまどろっこしいことになってなかったろうが。桜花といるとこ盗撮した挙句、浮気だ何だって騒ぎやがって」
「そ、れはごめん……ちゃんと桜花ちゃんに確認したよ。疑って、ごめんね、将冴」
「分かったんならそれはもういい。残るはこいつだろ」

 ふたりだけの会話。それについていけず、ぽかんとしてれば「海鋒」と樋爪に呼ばれた。

「色々言ったけどな、重要なのは、俺と清花は付き合ってねぇってことだ。これだけは理解しろ。今すぐ」

 樋爪と月島さんは付き合ってない。つまりふたりは恋人ではない。なるほど。衝撃の事実だ。

「おけ。分かった。理解した」
「ホントかよ」
「おー。何か事情があるんだろ? よそ様の家庭事情に首突っ込む気はねぇけどまぁ何か困ったことあったら言ってくれ。助けるから」

 嘘だ。本当はパニクってるし、事情って何だよ親の都合って何だよ俺らの都合って何なんだよと叫びたい。だけどそれをすると、樋爪にまた叩かれるだろうし何より月島さんを困らせてしまうだろうから出来ない。
 開きっぱなしだったアルバムをそっと閉じて、テーブルに置く。はははと乾いた笑い声を吐き出しながら、ティーカップの中の液体を喉へと流し込んだ。