父さん、母さん、むかつくことも多々あるけどかわいい妹達。今日が俺の命日になるかもしれないから、先に謝っておく。ごめん!
 頼むから振り向きざまに殴るのはやめてくれよと心の中で懇願しながら再び左へと視線を動かせば、予想に反して、樋爪は怪訝(けげん)な顔をしていた。何言ってんだお前と言わんばかりのその顔に、俺の方が逆に、何言ってんだお前、な心境になる。
 俺、何か変なこと言ったか? 視線だけでそれを問いかければ、さすが学校一の問題児、怪訝(けげん)な顔を呆れたと言いたげな顔に変えて、ひとつ大きなため息を吐き出した。

「清花、お前まだ話してなかったのかよ」

 ん? 月島さん?
 浮かんだ疑問符のままに、樋爪に向けていた視線を反対側にいる月島さんへと向ければ、彼女は口元に手をあてて、絶望一歩手前みたいな顔をしていた。例えるなら、ゾンビ系のパンデミックが起きて、逃げてる最中に友達だか家族だかの後ろにゾンビが迫ってきてるんだけど気付いてるのは自分だけで、でも「あ……ああ……あ、」しか言えない人みたいな顔だ。

「めんどくせぇな。おい、海鋒」
「っう、え、なな何」
「俺らはちょっとややこしいんだわ。説明すっから、家来い」
「え。や、」
「来い」
「……で、も、ほら、もう暗くなっ」
「来い」
「……」
「遅くなるって家に連絡しとけ」

 い、生きて帰れる?
 思わずぶつけそうになった質問をごくりと飲み込んで、ひくりとひきつった口でイエスを吐き出した。