「ひさしぶりだな、魔王アリギュラ」

 暗がりの中から響いたのは、低く艶やかな男の声。魔王と呼ぶには爽やかすぎる声に、アリギュラはぴくりと眉を動かす。

 なぜだろう。今の声、どこかで聞いたことがある気がする。訝しんでアリギュラは赤い瞳を細めた。そうやって眺めていると、明るみの中にひとりの男が進み出てくる。

「数年ぶりにかつての宿敵と会えてうれしいよ。もっとも、君にとってはここ数か月の話だろうけど」

 目を瞠るアリギュラをよそに、男はニヤリと笑う。けれどもアリギュラは、それに答える余裕はなかった。

 黒く長いローブに身を包んだ、筋肉質だがすらりとした肢体。その上に乗る、男らしく端正な顔立ち。人と天使のハーフであることを示す、星々の光を閉じ込めたような輝く銀髪。

 渦巻く角を二本、頭に生やしているが、間違いない。

「勇者カイバーン……!」

 アリギュラが呼ぶと、カイバーンがますます笑みを浮かべる。それを睨みつけたまま、アリギュラは魔剣ディルファングを呼びだし、強く手に握った。

「貴様がなぜ、この世界にいる――!」