(だが、惚けるのもここで終いだ)

 わずかだがアーク・ゴルドから引き継げた自身の魔力を用い、影の拘束を引きちぎる。もとより向こうに、メリフェトスを監禁する狙いはないのだろう。だから、自由になるのは容易だった。

 おそらく相手の狙いはアリギュラ。彼女をここに誘き寄せるために、メリフェトスを連れてきた。さらには拘束せずとも、メリフェトスに逃げられない自信が相手にはあるらしい。

 この世界で、それほどの力量を持った者といえば。

 メリフェトスが立ち上がるのと同時に、全身が紫炎に包まれる。炎が晴れた時、メリフェトスの手には鋭い鉤爪がつき、白のローブの裾からは鋭く尖る尾が覗く。

 アーク・ゴルドにいたとき、彼のトレードマークであった緑の鱗。それをうっすら額に浮かび上がらせた半魔の姿で、メリフェトスはカッと目を見開いた。

 暗闇の奥から、紅蓮の炎を纏った無数の矢が突如出現し、弧を描いて降り注ぐ。素早く地を蹴ったメリフェトスは、滑るように駆けてそれらを交わす。そして、間髪入れずに地に手をつき、矢の飛んできた方向を見据えた。