長い時を一緒に過ごしていても、まだまだ知らない顔と言うものはあるものだ。そう、メリフェトスは笑みを漏らす。叶うなら、ほかにもいろんな顔ももっと見てみたかった。怒った顔。笑った顔。拗ねた顔。はにかんだ顔。

 恋に落ちたとき、あなたはどんな顔を相手に向けるのだろう。

 ずきりと、胸の奥底に痛みが走る。それには気づかなかったフリをして、メリフェトスはひとり壁に背をもたれる。

 どれほどの時間が残されているのかはわからない。けれども、メリフェトスが終わるその日は、アリギュラがこの世界で生きていく資格を得る重要な日となる。だから感傷に浸っている暇はない。燃え尽きる最期の時まで、最初の――そして、最後の臣下として、魔王(あの方)をお支えしていくのだ。

 ――願わくは、私が姿を消すその時、貴女がほんの少し、私の為に泣いてくれますように。それだけで自分は、思い残すことは何もない。

 そんな小さな願いを胸に、メリフェトスはそっと、瞼を閉じたのだった。