思えば、随分遠くへきたものだ。天井を眺めながら、メリフェトスはそう目を細めた。
あの日を境に、自分の世界は一変した。身一つで「魔王になる」とのたまう無茶苦茶な主に振り回され、あちこちを駆け回る毎日。頭を抱えることも多かったが、振り返れば嫌なことはひとつもない。
ともに魔界をめぐり、ともに魔族を殴って味方に加えた。アリギュラの配下となる魔族はグングン膨らみ、気がつけば四天王なんてものもできた。
日増しに覇者としての風格を膨らませ、魔族の頂点として魔界に君臨するアリギュラ。そんな彼女と同じ夢を見て、ともに追いかける。
戦乱の世だった。たくさん血も流れた。けれどもメリフェトスは、アリギュラと駆ける夢の中でたしかに幸せだった。
(……なんて。俺は何を、センチメンタルに浸っているんだか)
苦笑を漏らして、首を振る。こんなところを主人にしられたら、また鼻で笑ってバカにされそうだ。
そんなことを思いながら、メリフェトスは湯殿から上がった。


