魔王様は攻略中! ~ヒロインに抜擢されましたが、戦闘力と恋愛力は別のようです


 ちゃぷん、と。雫が水面を叩く音がする。

 それで、沈んでいたメリフェトスの意識はゆっくりと浮上した。

 長い睫毛をふるりと震わせ、静かに瞼を開く。視界に入るのは、ゆらゆらと立ち上る湯気と身体を包み込む湯。

 水音をたて、メリフェトスは腕を持ち上げる。濡れた前髪をかきあげながら、彼はひとり嘆息する。身体があつく、すこしだけ気だるい。どうやら湯浴みの最中にうたた寝してしまったようだ。

 両手で湯を掬い上げて、顔を洗う。そうすると、まだ半分寝ぼけていた頭がよりクリアになる。細く息を吐き出して、メリフェトスは後ろに寄りかかった。

 随分と懐かしい夢だった。

 敬愛する魔王、アリギュラと出会った記念すべきあの日。アーク・ゴルドでの計算で約130年ほど前だろうか。それは、自分がこの名を名乗り始めた日でもある。