幸い『彼』は強かった。おかげて生き延びてこれたが、そのために人間どもの間で目の敵にされている。『彼』に瀕死の傷を負わせたギルドの連中が言っていたが、いまや『彼』の首には懸賞金が掛かっているそうだ。笑わせるなという話だ。先に命を奪いにきたのはどっちだと思っている。
苦々しさに顔をしかめ、『彼』は吐き捨てる。
「……我ら悪魔は、人間よりはるかに強い。ですが奴らは、我らと異なり群れを成し協力し合います。群れが大きくなるほど連中は狡猾さを増し、いずれ悪魔をも滅ぼすでしょう」
「おぬしが、狩られそうになったのと同じにか」
「ええ。もっとも、私の命はそう長くは保たないでしょうね。連中に執拗に目をつけられていますから」
言いながら『彼』の口には自嘲の笑みが浮かんだ。
そうだ。どうせ、自分はもう長くない。今日はチビ悪魔の助けもありどうにか生き延びたが、次に襲われるとしたらもっと巨大なギルドが相手のはずだ。今日が50人なら、次は100人。それでダメなら次は200人。膨れ上がった大軍に、いつか自分は狩られることになるだろう。
人間どもの、くだらないステータスのために。
悔しさに、『彼』が眉根を寄せた、その時だった。


