キャロライン・ダーシー。もう少し骨のある人間かと思ったが、この程度か。そう、アリギュラは嘆息する。

 大勢の人間に取り囲まれ、顔色をなくし呆然とする令嬢。あれではもう、立ち上がることはできないだろう。勇者に似ているなどと、とんだ見込み違いだ。こんなに簡単に折れてしまうなど。

(つまらぬ、か)

そう思ったところで、アリギュラは自嘲した。所詮、連中は人間で自分は魔族だ。勝手に期待して、勝手に失望した。ただそれだけの話。

けれども。

(少しは、この世界も楽しめるかと思ったんだがな)

 聖女やら何やら、どうでもいい。連中を助けるために戦うなどまっぴらだ。メリフェトスが言うから。世界を救わないと、アリギュラ自身が消えてしまうなどと言うから。アリギュラのモチベーションは、それ以上でもそれ以下でもない。

 しかし、人間の中にも面白い奴がいるなら。友と呼ぶ気になる者がいるなら。少しはやる気を出してやってもいいかと思えた。思えた、のに。