まさか、キャロライン様が? 言われてみれば、今日のキャロライン様は、聖女様と何かと張り合っていたように見えなくもない。しかし、聖女様がジーク殿下を奪おうとしていたとは、どうにも。勝手にそのように思い込んだ可能性はあるぞ。

 ひそひそ、ひそひそと。小さな疑念が渦になって、キャロラインに襲い掛かる。その傍流に呑まれてしまいそうになり、思わず彼女は助けを求めてジークを見た。

 ――そして、絶望した。

「キャシー……。何かの間違い、だよね?」

 信じようと、誠実であろうとしてくれているのはわかる。しかし、ジーク王子の瞳にも、微かに疑念の色が浮かんでいる。彼は、ジーク王子は、キャロラインを全面的に信じてはくれなかった。

(私は……。私のこれまでは、なんだったのでしょうか)

 頭の中が真っ白になっていく。呆然と、キャロラインは立ちすくんだ。

 自分のすべてを捧げてきたのに。婚約者として、未来の王太子妃としてジーク王子を支えられるように、あらゆる努力を重ねてきたというのに。ほんの小さな亀裂が、これまで築いた信頼を崩していく。自分と王子との間に、大きな溝を作っていく。

 その間にも、人々の間ではどんどんと疑念が膨れ上がっていく。もうここに、自分の味方はいない。信じて擁護してくれる者など、誰もいやしないのだ。