「大変ですわ! キャロライン様がケーキを! ケーキを、聖女様に投げつけましたわ!」

 突如起こった騒ぎに、ほかの参加者たちも何事かと集まってくる。徐々に大きくなる人の輪の中心で、3人の娘の一人、くりりとした瞳の小柄な娘がキャロラインをびしりと扇で指す。そして、呆然として動けないキャロラインを声高に弾劾した。

「私、見たのです! キャロライン様がわざと転んだ風を装って、聖女様にケーキと皿を投げつけるのを!」

「……おい、メリフェトス。何が起こってる?」

 娘たちに気づかれないよう、アリギュラはこそりと後ろにいるメリフェトスに囁く。モノクルについたクリームを拭いながら、メリフェトスもこそこそと返事をした。

「女神が話しておりました。おそらくこれは、悪役令嬢の弾劾イベントです」

 女神曰く。ジーク王子のルートで、キャロラインはいわゆる憎まれ役らしい。

『まほキス』のキャロラインは、聖剣の預かり手にジークを選んだヒロインに嫉妬する。そして、ちくちくと嫌がらせをしたり、陰でヒロインに辛くあたったりする。

 世界を救うためとは言え、婚約者がほかの娘と口付けをかわすのだ。キャロラインの怒りはもっともだろう。けれども『まほキス』の中で、キャロラインの行為は行き過ぎたものとされる。中盤、王城で開かれたパーティでキャロラインはこれまでの悪事を糾弾され、王子に婚約破棄をいいわたされしまうのだ。