肩にぽたりと落ちたクリームの塊を、メリフェトスが指ですくって舐める。「……甘いな」とどうでもいい感想を呟いてから、彼は小首を傾げた。

「しかし、なぜケーキが空を舞ったのでしょう」

「もっ……、申し訳ございません!!!!」

 悲壮な声と、潔い土下座。アリギュラの目の前で蹴躓いて倒れ込んでいた何者かが、そのまま深々と頭を下げた。

 ややあって、恐々と青ざめた顔をあげた人物に、アリギュラもメリフェトスもおやと目を瞠った。それは、悪役令嬢キャロラインだった。割れた皿とケーキまみれのメリフェトスを順に見つめ、彼女は唇をわななかせた。

「私としたことがなんてことを……! す、すぐにお召し替えの手配を」

「きゃあああああああ!!」

 その時、第三者の悲鳴が響いた。大袈裟すぎるそれに、たまらずアリギュラは顔をしかめる。じろりとそちらに視線をやれば、転んだまま起き上がれずにいるキャロラインの後ろで、三人の娘たちが身を寄せ合ってこちらを眺めている。

 そのうちの一人が、愕然とするキャロラインに扇を突き付けた。

「私、見ましたわ! キャロライン様が、聖女様にケーキを投げつけるところを!!」