「驚きました。我が君は、あの人間のことをそんなにも気に入ったのですか?」
「まあな。似ておるからな、あの娘は」
「似ている? 誰に、でございましょうか」
「勇者カイバーン」
桜色の唇が、その名を紡ぐ。思わず動きをとめたメリフェトスを、アリギュラは肩を竦めて見上げた。
「思わぬか? 圧倒的強者を前にして折れない心。転ぶたび立ち上がるしぶとさ。己を信じ、突き進むその情熱。――キャロラインは、カイバーンにそっくりじゃ」
グラスの中で、赤い液体が揺れる。その色は、いまは遠くなってしまった故郷、アーク・ゴルドに燃え上がった炎を思い出させる。直接剣を交わしたのは一度切りだったが、間違いなく好敵手であったその男を想い、アリギュラは目を細めた。
「わらわはな、あの男を存外気に入っていたのじゃ。あの者はいい。己が正義を信じていた。ゆえに傲慢。ゆえに鼻につく。じゃが、それがあやつの剣を美しくしていた。だからこそわらわも、真っ向から迎え撃つ気になったというものじゃ」
どこか楽しげに、アリギュラが笑う。その横顔にメリフェトスは目を瞠り、――なぜかざわついた自分の胸に、戸惑い眉根を寄せた。


