少しの焦りも感じない聖女の表情に、キャロラインはふつふつと嫌な予感を募らせる。緊張にごくりと唾を呑みこむキャロラインをよそに、アリギュラは顎に手を添えて小首を傾げた。
「時に言葉より、芸が心を動かす、か。まったくもって、その通りじゃ。おぬし、人間の小娘にしてはよくわきまえておるではないか」
「ふえ……? へ、あの、人間……?」
「じゃが、手ぬるい!」
ばっと勢いよく手を掲げ、アリギュラが不敵に叫ぶ。その手には、いつの間にか鈍色に輝く長剣――魔王アリギュラの愛剣、ディルファングである――が握られている。
聖女に合わせるように、美形の神官――メリフェトスである――も、聖剣を手に前へと飛び出す。光と陰。それぞれの手に剣を持ち、聖女と神官は構えた。
呆気にとられるキャロラインに、聖女は歯を見せて笑った。
「魅せてしんぜよう! 我らが剣舞!!」
おおっ!と、どよめきが湧いた。
聖女と神官が、長剣を打ち合わせながら舞を始めたからだ。
「はあっ!!」
「くっ!!!!」
力強く金属がぶつかる音が、ホールの天井にこだまする。舞と言っても、打ち合いはあくまで本気。一手間違えれば、相手の首を飛ばしかねない。それぐらいの気迫が、二人の剣にはあった。
しかし、だからこそ。