(ご覧ください、ジーク様! 人々の心をつかむのは、言葉だけではありません。時に音楽が。時に音色が。芸術が、人の心を動かすのですわ……!)

 ポロロロロン、と。流れるように、白い指が鍵盤の上を踊る。キャロラインが演奏を終えると、わっと拍手が満ちた。

(やり切りましたわ……!)

 内心では額の汗を拭いながら、キャロラインは賛美の声に答えて優雅に礼を取る。

 素晴らしい。我ながら、心の籠った演奏だ。

 聖女が元の世界ではどんな暮らしをしていたのかは知らないが、彼女にここまでの演奏は出来ないだろう。キャロラインの演奏は一朝一夕ではなしえない。小さい頃からの血のにじむような努力の果てに、たどり着いた演奏なのだから!

 今度こそ勝った! そのように、キャロラインは内心でガッツポーズを決めたのだが。

「見事。いや、見事であった」

「っ、聖女様……!」

 ぱちぱちと、近くで手の鳴る音がする。振りむけば、余裕の笑みをたたえたまま、アリギュラがキャロラインに拍手をしていた。