「ほう? 次は一芸勝負ということか」

「心を込めて演奏いたします。そちらで聞いていてくださいね」

 アリギュラを無視して、キャロラインは壇上を降りて楽団のもとへ向かう。そこにあったピアノにキャロラインが腰かけると、パーティの参加者たちは嬉しそうに声を弾ませた。

「ダーシー家のご令嬢の演奏か!」

「楽しみですわ! 南部はの方々の音色は、とても素敵ですもの」

「それに、キャロライン様は特に、音楽の才が秀でたご令嬢。はぁ。今日はどんな演奏をなさるのかしら!」

(さあ、いきますわよ!)

 気合を入れて、譜面に向き合う。深呼吸をひとつしてから、キャロラインは鍵盤に指を落とした。

 すぐに、感嘆の声が広間のあちこちからあがった。

 演奏。それは、キャロラインの特技の一つである。ダーシー家のあるエルノア国の南部は、絵や音楽といった芸術が盛んだ。そういったわけで、名家の令嬢であるキャロラインには幼いころから著名な演奏家が家庭教師として付けられ、音楽のイロハを叩きこまれた。

 そうした特訓の成果により、キャロラインは下手な演奏家よりもずっと素晴らしい音色を奏でる、立派な音楽家へと成長を遂げていた。