(な、な、なにを~~~~! これしきのことでめげてはなりませんわ、キャロライン!!)

 異世界からきた聖女への熱狂に沸く、アルデール城の大ホール。その中で一人、キャロライン・ダーシーだけは悔しさに打ち震えていた。

(祝賀会はまだ始まったばかり! この日の為に、私、あんなに準備をしてきたではありませんか! 焦ってはダメですわ、キャロライン! 負けるなですわ、キャロライン!)

 自分を励まし、キャロラインは前を向く。

 そうだ。ダンスに、演奏。刺繍に、マナー。自国や諸外国の言語、歴史、産業、内部事情。未来の王太子妃として、あらゆる知識を叩きこまれてきた。どんな厳しいレッスンにもこれまで耐えてきたのだ。ぽっと出の聖女になんか、負けてなるものか。

(ジーク様のお隣にふさわしいのは私。その証明をしてみせますわ!)

 決意も新たに、キャロラインはブンと縦ロールを揺らした。

「そ、そうですわ! 私、聖女様に捧げる曲を練習してきたのでした!」

 熱狂冷めやらぬ中、キャロラインはぱんと手を合わせる。若干その笑顔は引き攣っていたが、幸いにして、パーティの参加者たちに気付かれることはなかった。

 唯一アリギュラだけが、にやりと意地悪い笑みを浮かべた。