うまく言葉を返せずにいる異界の魔物をよそに、ジーク王子は少年のようにきらきらと目を輝かせた。

「先日のグズグリの急襲の折。貴女様の戦いぶりを拝見させていただきました。まさに戦の女神! 私は貴女が、クレイトス神と重なって見えました」

「そ、そうか。それは、くるしゅうないぞ」

 なんといっていいかわからず、アリギュラは目を逸らす。少なくともアリギュラは女神ではない。むしろその反対の、魔王である。けれども気まずげなアリギュラをものともせず、ジーク王子は悩ましげに嘆息する。

「剣を手に、ひとり魔物に向かっていく貴女様の姿に、私の心はすっかり塗り替えられてしまいました。私は貴女の剣となり盾となり、前線に立つ覚悟を固めております。願わくば、貴女様がもう一度、聖剣の担い手について考え直してくださると良いのですが……」

「……おやおや。これは驚きましたね」

 話が見えずに混乱するアリギュラだったが、誰かに後ろからぐいと肩を引かれた。どうやら、呆気に取られていたメリフェトスが復活したらしい。

 とん、と背中がメリフェトスにぶつかると同時に、なにやら冷ややかな空気が頭の上から降ってくる。あ、これ、怒っているときのメリフェトスだ。そのようにアリギュラが察するのと同時に、メリフェトスはこめかみをヒクヒクさせながら微笑んだ。