我が君が可愛すぎる。
その想いに、メリフェトスはここ数日の間で急速に悩まされるようになったのである。
(いや、だって。我が君があんな反応をなさるなんて、さすがに反則すぎるだろう)
誰に向けるでもない言い訳を並べながら、メリフェトスはこほんと咳ばらいをし、廊下を歩く。あのまま調べものをしても効率が悪いため、諦めてアリギュラのもとに戻ることにしたのだ。
さて。メリフェトスが言うところの、アリギュラの『あんな反応』とは。
言うまでもなくそれは、聖女の力を貸し与えるための儀式、――口付けの際の反応である。
実のところ、「アリギュラ様はこっそり可愛い」と、以前から四天王の間では話題だった。
『覇王の鉄槌』を落としておきながら、自分で音と光にびっくりしてみたり。子猫に好かれるために、部下たちに隠れてこっそり猫の鳴きまねを練習してみたり。酒に酔った夢魔たちが武勇伝を話しだした途端、適当な理由をつけてそそくさと逃げ出してしまったり。
戦場における、凛々しく、覇者としての風格漂う姿とはあまりに違う。側近たちしか知らない、ギャップ萌エピソードが盛りだくさんな魔王。それがアリギュラである。


