別に死にたい訳ではないのかもしれない。
しかし反対に生きたい訳ではなかった。

求めていたのは完全な無。

初めから存在なんてしたくなかった。
傷ついて傷つける為だけに生きているのか。

何が助けだ、愛なんて絶対信じない。


泣きそうになるのを堪えて携帯から聞こえる親友の声に聞き入った。

「…明日の夜、また電話かけていい?」

数ヶ月前に出会ったのに今ではとても慣れ親しんだ機械越しの声。
声が震えないように喉の奥から返事を絞り出した。

「あたし明日出れるか解らんよ?」

「まじで?全然いいよ」

ごめんなさい、明日は来ないと思う。
本当に感謝してる。
今まで頑張れたのは貴女が支えてくれたからだよ。

「まぁ、また電話するわ!
おやすみ」

「待ってる!
おやすみ…」

あるはずの明日をあたしは自ら閉ざそうとしていて。
少しだけ、涙が溢れた。

生きたいと願ってしまった。
でも、大切な人を無くしたまま今を生き抜くには少し辛過ぎて。
もっと話しをすれば良かった。
今はそれは叶わなくて。
せめて一言謝りたい。
きっと知らないうちに酷く傷つけたのだろうから。

鞄の中から白い錠剤を取り出す。
瓶いっぱいに溜まったそれは致死量以上の量で。

一つ一つヨーグルトに入れて飲み下す。

また涙が溢れる。
罪悪感と不安と入り交じって薬のせいか甘いはずのヨーグルトは酷く苦かった。

日本酒を煽り、ベッドに入る。
ぐるぐると視界が回り気持ち悪い。
喉元をせり上がって来る日本酒を必死に堪えた。

アルコールからか薬の作用か、とても眠くなってきて。

「ごめんなさい…」

あたしに関わった全ての人達に。
本当に今までありがとうございました。
あたしは幸せ者でした。
病みきった体と心じゃ、もう生きていけない。
それでも少しだけ夢見てた。
出来るだけ永く続く平凡な幸せを。


絶え切れなくなって瞼を閉じる。
作られた眠りがあたしを引き込んだ。

走馬燈なんて見れなかった。

夢でも幻でも、
貴方ともう一度逢いたかったのに。



END