秒速ファシネイト






いつもはピンクのリップを塗るけど、今日は無色透明にした。


メイク自体、全体的にいつもよりまじめで、大人しめ。



一条凪、こーゆうのが、好きなんでしょ?




「どう?正解?」



「…うん、そうだね」





一条凪が顔を上げる。





「完璧、じゃない?」





あ、しまった。


思ったよりも距離が近い。






「…っ、そ、そう。ならよかった」





ふいっと視線を逸らした。




くす、と笑い声が聞こえる。



まるで何もかも見越したような、少し小馬鹿にしたような。





「うん。チェックする必要、なかったね?」





…悔しい。

なんでこう、私ばっかりいつも余裕がないの!!





「きっ、木村さん!!」





その時、一人の男子が顔を真っ赤にして私に話しかけてきた。