その日は曇りだった。少し肌寒くて空気が張り詰めていた。
「今日は曇りだね」と俺は言う。
「・・・うん」
その日は彼女の笑顔は無かった。
彼女をベンチに座らせようと手を伸ばす。
「今日は、このままでいいから」
彼女は俺に触れられるのを拒んだ。
明らかにいつもと違う雰囲気だった。
「どうしたんだい?」と俺は聞く。
彼女はうつむいたまま何も言わなかった。
「別に言いたくなかったらいいけど」
ブラックコーヒーを一口飲み込みタバコに火をつける。
それからしばらくの沈黙が続いた。
「あのね、あさってね、手術なの」
彼女がなんの病気かも知らない。いままで病気の事を話したことがなかったので驚く。
「手術?」
「うん・・・」
白くて細い指は少し震えていた。

俺は彼女の手を握り締めて
「大丈夫だよ」
と言った。

「ここで待っててくれるよね?」
彼女はずいぶんと考えてから言った。
「当たり前だろ」
慣れた手つきで二本目のタバコに火をつける。