折角わざわざ取りに行ってくれたのに、今更断ることも出来なくて、おずおずと手を伸ばして受け取り、ぺこりと軽く頭を下げた。


「あ、じゃあ、お借りします……」


「ちょっと待った。いつの間に、コイツと知り合いになったんだよ?」


書道セットを受け取った私の腕を、突然セイ兄が掴んだ。


ギュッと掴まれた腕がちょっぴり痛いけれど、それよりも、セイ兄が何をそんなにピリピリしているのか判らない。


「いつ、って……ついさっきだけど……?」


セイ兄は私に習字道具を貸してくれた先輩を睨んだまま、私から書道セットを奪い取り、そのまま相手にそれを突き返した。


「まひるには、俺のを貸すから」


「えっ、ちょっ……」


セイ兄!?いくら何でも、それはちょっと失礼なんじゃ……。


あたふたする私の耳に、5時間目開始の5分前を知らせる予鈴が聞こえてきた。


「やばっ、次は移動教室だから急がないと!これお借りしますっ」


セイ兄の手から書道セットを奪い取ると同時に、「おいっ、まひる!」と呼び掛けるセイ兄の声は無視して、走ってその場を後にした。