「もういいから。頭を上げてくれるかな?」
優しくあさ兄はそう言うと、深月先輩はゆっくりと顔を上げた。
あさ兄はまず、「今日は、わざわざうちを訪ねてきてくれてありがとう」と深月先輩へのお礼を口にした。
その言葉に、深月先輩からは安堵といった感情よりも、もどうして一言も責めないのかとでも言いたげな様子が読み取れた。
それを察したのか、あさ兄が「あの時の君は、唯一の肉親を亡くしたばかりで、動揺するのも当然だった」と、深月先輩の気持ちに寄り添った。
「僕たちも訳が判らないまま気持ちの置き所がなくて、ずっとあの日の出来事を引き摺っていたけれど、本当のことを知ることが出来て、これでようやく少しずつ気持ちの整理が出来そうだ」
そう話すあさ兄の表情に翳りは微塵もなくて、私には肩代わり出来ない重荷をこれで下ろすことが出来たんだと思ったら、なんだか無性に泣きたくなった。
深月先輩は小さな声で謝罪とお礼の言葉を呟くと、「それから、これ――」と、結構な厚みの封筒を取り出した。

