物事なんでも、失ってからその大切さに気付く。

 なくしてから、それがないといけないものだったことを知る。

 それが自分の心の支えになっていたことを知る。

 いつもと同じ部屋のはずなのに、やけに暑く感じた。



 帰りに、近所の家の人が打ち水をしていた。

 「涼しくなるのよ」と子どものころに言われて、これまでその効果はこの身をもって体験することはできなかった。



 濡れてしまった枕が、いつの間にか冷たくなっている。

 濡れては冷えて、また涙で熱くなる。

 ひとしきり涙を流し終えると、脱力感に包まれて、そのまま意識を手放してしまった。