テスト前日、俺と西さんは相変わらず保健室にいた。栗ちゃんは部活の先輩や後輩に連れ去られてどこかへ行ってしまった。あの時の栗ちゃんの悲壮感漂う顔は忘れられない。


 『葵っ……あおい!! お前はオレを見捨てるっていうのかよ! なぁ葵、信じてたのに……っ!!』


 結構うまい芝居だったと思う。あいつバスケだけじゃなくて演劇も才能あるんじゃないかな。まぁ半分以上本心だったと思うけれど。


 「にしても栗原くん、先輩だけじゃなくて後輩にも成績の心配されてるんだね」

 「あいつのバカは筋金入りだからな。放っておくとほんとに勉強しない。そのくせやればできるから厄介なんだよ」


 羽交い絞めにされて引きずられる栗ちゃんを心配そうに眺める後輩もいた。「栗ちゃんを椅子に縛り付けてでも勉強させてくれ、親友からのお願いだ」というとホッとしたような顔をしていたけれど。


 「まぁこれで俺に降りかかってくる迷惑が少し減ったってことだ」

 「大変だねぇ葵くんも」


 そういうの、ちょっとうらやましいけど、とアルファベットをすらすら綴りながら彼女が言う。