ひとりいなくなるだけで、部屋はすごく広く感じられる。

 たかがひとり、されどひとり。

 かなしいかな、俺のような思春期男子は、可愛い女の子とふたりきりというこの状況を意識せざるをえない。落ち着かない自分をどうにか鎮めるために、手をさすったりわざとらしく外を見つめてみたりする。

 もちろん、西さんに気付かれない程度に。


 「っぷぷぷ……」


 そんな僕を横目に、突然西さんが口元を押さえて肩を揺らし始めた。

 笑ってる。それはそれは笑ってる。


 「なに笑ってんのさ」

 「いや、ぷぷっ、何も、なっい、よっ」


 笑いながら話すせいで言葉が全部揺れている。これだけ笑っておいて何もないわけないじゃないか。


 「なに」


 少しだけにらみを利かせてそういうと、彼女は息を整えてから半笑いの口元のまま俺を見つめた。


 「先生を前にした葵くんって、普段と全く違うよね」


 なんだ、そんなことで笑っていたのかとため息が出た。俺からしたら何が面白いのか全然わからないけれど、彼女はそれでいつまでも笑っている。

 俺、変な顔でもしてたのかな。

 ひとまず緊張が伝わってなかったことに安心した。