それからというもの、俺の日課の中に「西さんに会いに行く」というものが追加された。放課後の限られた時間だけ。ほんの10分か15分くらいの間だけ、養護の先生を交えて楽しく喋る日が続いている。


 「先生たち、私がここにいることずっと黙っててくれたんだよ」

 「やっぱり。なぁんかおかしいと思ってたんですよ。僕がここで西さんを見つけた日に、先生、『誰もいなかったでしょう』みたいなこと言われましたよね? 一瞬だけ西さんのこと幽霊かと思っちゃいました。他の先生方も何も教えてくれないし……」

 「ごめんなさいね。まさかあのとき宗谷くんが西さんのこと見つけたなんて考えもつかなくて」


 穏やかな時間が流れていく。

 聞くところによると、西さんは空いている先生に個別で勉強を教えてもらっていたらしい。その中でも特に英語の藤岡先生がわかりやすく教えてくれたんだとか。西さんの体と心のことを一番理解してくれるのも藤岡先生らしい。

 俺たちが授業についての話を交わしていると、先生が時計と愛用の手帳を交互に見始めた。そういや、外を行く足音が増えたような気がする。


 「私そろそろ職員会議に行かないと。宗谷くんまだここにいる?」

 「いえ、もうすぐ帰ります。あと5分くらいで」

 「そう。西さんはお迎えがまだだから、一応不在の札はかけておきますね」


 ボールペンと数枚の書類を持って、先生がガラリと扉を閉めた。

 かなり時間ギリギリまで俺たちといることを選んでくれたのだろう。ドアを閉めた先生は光の速さで保健室の前から姿を消した。