『ごめんな葵。ちょっと落ち着いたら父さんの話を聞いてもらいたいんだ』

 そうして俺の部屋にそっと入ってきた父さんに寄り添われ、床に腰を下ろした。

 佐藤さんは気づいていて父さんを見逃したのか、気付いていないのかはわからないけれど、小さな声で話さなければならないらしい。父さんの声はほとんど囁きのようなもので、俺の嗚咽に交じって消えてしまうくらいに小さいものだった。


 『大丈夫、ごめんね、いつまでも泣いてて』

 『いいんだ。こんなことが起こって平然としてられる方がおかしい』


 ましてやお前みたいな高校生だったらな、と言葉を漏らす。

 一定のリズムで背中を擦られて、乱れた呼吸が徐々に戻り始めた。

 涙は流れ切ったのか、これ以上こぼれてくる気配はなかった。父さんに続きを話すよう促す。


 『来週から、向こうで生活してもらおうと思ってる。学校には今日話を通しておいたから、明後日くらいに必要な書類とかこれからについて、細かい話があると思うんだ』

 『向こうの家に挨拶しなくていいの?』

 『母さんに事情を話してもらってるよ。喜んでたって、葵と一緒に暮らせること』


 お世辞でもなんでもいい。そのときはその言葉がすごくうれしかったんだ。必要とされてるんだって、うわべだけでもそういってほしかった。


 『明日も学校あるんだろ。友だちとかにも……言いにくいとは思うけど、詳しい事情を伏せてなら言えるだろ。いきなり葵が姿を消したらびっくりさせるだろうから、きちんと話しておくんだよ』

 『わかった……』