「ごめんなさい、父さん、」


 最近、やけに人の涙に触れる機会が多くなっていたから、それがうつったんだろう。


 『誰にでもつらいことはあるよ。泣きたいときだってあるし。そういうときは泣けばいいんだよ。子どもみたいに声を上げて。そしたら、誰かが気づいてくれるから』


 いつかの彼女からかけてもらった言葉を思い出す。

 いま俺が泣いたら、父さんは困るかな。祖母が慌ててとんできて、またヒステリックに叫び散らすのかな。

 誰かに気付いてほしくて堪らないのに、俺は自分の気持ちを伝える方法をあまりにも知らなさすぎる。


 涙は、敗北?


 「とっ……う、さん、おれっ、おれっ……」

 「あおい」

 「父さん……っ父さんっ……っぅ」


 そばにいてほしいだけなんだ。たまに頭を撫でてもらえたら、それ以上は望まない。

 それが当たり前のことじゃないって、今だからわかる。

 嗚咽は止まらなくて、ただ頬を伝って流れていく液体を眺めることしかできなかった。

 口の中に流れ込んでくる生暖かい液体は、驚くくらい塩辛かった。


 長年ためていた寂しさは、とうの昔に飽和していたらしい。