それから私は、少しづつ、少しづつだけど喋れるようになってきた。彼のお陰だ。
そして私たちは今日も一緒に部活に励んでいる。部長と副部長には、この間「まさか伊代にも彼氏ができるなんてな」と声を合わせてからかってきた。彼が好きなのかは分からない。分かりたくもないのかもしれない。
「ねぇねぇ、そういえば伊代って僕の名前声に出さないよね」
急にそんな事を言われた。確かにずっとフルネームを頭に記憶させているだけで、使おうとはしていなかった。やっぱり慣れていないからだろう。
「もしかしてなんて呼べばいいか分からないから呼んでくれないの?」
「い、いや、そういう訳では無いんだけど...」
「まあいいよ。じゃあこれからは春って呼んでよ!僕は伊代でいい?」
「え?あ、えっと....良いよ」
そう言うと彼、春はニコッと笑い視線を絵に戻した。
その夜また夢を見た。
何年か経ったのだろう。視線が前よりも高くなっている。そして、何故か私の体はこの間見た夢の中の男の子になっていた。
彼は必死に何かを探しているようだった。
そこらじゅうを走り回り、あの公園に辿り着いていた。するとそこには、私の姿が。体を見ると、中学の制服を着ている。
男の子は大きな声で言った。
「やっと見つけた。伊代!僕迎えに来たよ!一緒に遊ぼう!」と。
しかし、私は私(男の子)には全く興味を示さなかった。そして小さく、消え入りそうな声で言った。
「誰?」
そこで目が覚めた。
最悪の目覚めだ。洗面所へ行き顔を洗おうと鏡を見ると、そこには汗でべちょべちょになった自分がいた。
今日は学校に行きたくない。昨夜見た夢と春を重ね合わせてしまいそうだったから。
しかし、行かないとという自分がいて家に居ても責めてきそうだっだ。
どちらを選ぶか.....
「あーもう!」
イライラしながら結局私は学校へ行ったのだった。
だが学校へ行ってからある事に気がついた。
今日は部活があるのだ。春に会える!
胸が踊った。こんなに暖かく、幸せな気持ちになったのはいつぶりだろう。
でも、それが春に対しての特別な気持ちである事に気が付いて、何だかまた気持ちが沈んでしまった。
春に会えるのを楽しみに、部室へ向かう。
ドアを開けると部長と春がいた。何やら話しているようだ。
さっとドアの隙間を狭くして気づかれないように耳を傾ける。
「あんたはさ、伊代のことどう思ってんの?ほら、転校早々あの子に話しかけて、なにか目的があるんじゃないの?」
「いえいえ。そんな部長が考えているような事はしようとしていませんよ。でも、伊代は、僕がずっと探してた人なんです。」
「へぇー。まあ、伊代はいい子だから傷けないようにしてあげて」
部長はなんていい人なんだ。
私は一人で感動していた。
会話が終わったようだった為、私はノックをしてから中に入った。
「あぁ、伊代。お疲れ」
春が優しく言って私が座る分の椅子を出してきてくれた。
ありがとうと言ってその椅子に座る。今日は、いつも話を振られてばかりだから自分で話してみようと、話題を持ってきたのだ。楽しみだ。
「ねぇ...は、春?」
「どうした?」
そう言って首を傾げてきた。余計なことは言わずに話を続けるのを待っていてくれている。
「昨日ね、夢を見たの。その話してもいい?」
「勿論!伊代から話してくれるなんて嬉しいよ。」
私は時々言葉に詰まりながらも、ここ二日間の夢を春に話した。その間何も言わずに相槌をうちながら最後まで聞いてくれた。そして話が終わると、少し切ない顔をしながら何か覚悟を決めたような顔で言った。
「伊代。」
そう言った春の顔はものすごく真剣で少し怖くもあった。
何?何でそんな顔で見るの?嫌われちゃった?
「これから本当のことを話すけど良い?」
絵を描く手をピタリと止めてこちらを見る。
部長もこちらを見ているようだ。
「ごめん、突然。でも話さなきゃいけないんだ。」
私は静かに頷く。折角勇気出して話題を振ったのにこんなに真剣なことになるなんて思いもしなかった。
「伊代が見た夢は実は本当のことなんだ。」
さらに話を続ける。
「公園で遊んでたけど、途中で離れ離れになっちゃったっていう話。それから、中学で会ったのに君が僕を忘れていたという話。全部本当なんだ。」
「・・・・」
「き....君は中学2年生の始め、交通事故で記憶をなくしてる。」
え?全く状況が読み込めない。交通事故?記憶をなくしてる?夢は本当だった?
頭の中が「はてな」で埋め尽くされて、パニックになった。
それでもまだ春は話を続ける。
「ずっと言おうと思ってた。でも、一緒に話してくれることが嬉しくて言えなかった。本当にごめん…」
部長も手を止めて一生懸命に話を聞いているようだ。
「....え?いきなり何?私が春との記憶をなくしてる?どういう事?嘘なら....嘘ならそう言って!今なら許せるから!ねぇお願い!...嘘って言って」
こんな時だけ何故かすらすらと言葉が出て来る。本当はこんなに強くあたろうなんて思ってないけれど、もう言ってしまったなら手遅れだ。恐怖と後悔で押し潰されて落ち着かなくて、原因不明の苛立ちが襲って来て、恥ずかしくて私は部室を飛び出した。
途中に部長が私を呼ぶ声が聞こえたけれど、振り返らずただただ足を動かした。
そして私たちは今日も一緒に部活に励んでいる。部長と副部長には、この間「まさか伊代にも彼氏ができるなんてな」と声を合わせてからかってきた。彼が好きなのかは分からない。分かりたくもないのかもしれない。
「ねぇねぇ、そういえば伊代って僕の名前声に出さないよね」
急にそんな事を言われた。確かにずっとフルネームを頭に記憶させているだけで、使おうとはしていなかった。やっぱり慣れていないからだろう。
「もしかしてなんて呼べばいいか分からないから呼んでくれないの?」
「い、いや、そういう訳では無いんだけど...」
「まあいいよ。じゃあこれからは春って呼んでよ!僕は伊代でいい?」
「え?あ、えっと....良いよ」
そう言うと彼、春はニコッと笑い視線を絵に戻した。
その夜また夢を見た。
何年か経ったのだろう。視線が前よりも高くなっている。そして、何故か私の体はこの間見た夢の中の男の子になっていた。
彼は必死に何かを探しているようだった。
そこらじゅうを走り回り、あの公園に辿り着いていた。するとそこには、私の姿が。体を見ると、中学の制服を着ている。
男の子は大きな声で言った。
「やっと見つけた。伊代!僕迎えに来たよ!一緒に遊ぼう!」と。
しかし、私は私(男の子)には全く興味を示さなかった。そして小さく、消え入りそうな声で言った。
「誰?」
そこで目が覚めた。
最悪の目覚めだ。洗面所へ行き顔を洗おうと鏡を見ると、そこには汗でべちょべちょになった自分がいた。
今日は学校に行きたくない。昨夜見た夢と春を重ね合わせてしまいそうだったから。
しかし、行かないとという自分がいて家に居ても責めてきそうだっだ。
どちらを選ぶか.....
「あーもう!」
イライラしながら結局私は学校へ行ったのだった。
だが学校へ行ってからある事に気がついた。
今日は部活があるのだ。春に会える!
胸が踊った。こんなに暖かく、幸せな気持ちになったのはいつぶりだろう。
でも、それが春に対しての特別な気持ちである事に気が付いて、何だかまた気持ちが沈んでしまった。
春に会えるのを楽しみに、部室へ向かう。
ドアを開けると部長と春がいた。何やら話しているようだ。
さっとドアの隙間を狭くして気づかれないように耳を傾ける。
「あんたはさ、伊代のことどう思ってんの?ほら、転校早々あの子に話しかけて、なにか目的があるんじゃないの?」
「いえいえ。そんな部長が考えているような事はしようとしていませんよ。でも、伊代は、僕がずっと探してた人なんです。」
「へぇー。まあ、伊代はいい子だから傷けないようにしてあげて」
部長はなんていい人なんだ。
私は一人で感動していた。
会話が終わったようだった為、私はノックをしてから中に入った。
「あぁ、伊代。お疲れ」
春が優しく言って私が座る分の椅子を出してきてくれた。
ありがとうと言ってその椅子に座る。今日は、いつも話を振られてばかりだから自分で話してみようと、話題を持ってきたのだ。楽しみだ。
「ねぇ...は、春?」
「どうした?」
そう言って首を傾げてきた。余計なことは言わずに話を続けるのを待っていてくれている。
「昨日ね、夢を見たの。その話してもいい?」
「勿論!伊代から話してくれるなんて嬉しいよ。」
私は時々言葉に詰まりながらも、ここ二日間の夢を春に話した。その間何も言わずに相槌をうちながら最後まで聞いてくれた。そして話が終わると、少し切ない顔をしながら何か覚悟を決めたような顔で言った。
「伊代。」
そう言った春の顔はものすごく真剣で少し怖くもあった。
何?何でそんな顔で見るの?嫌われちゃった?
「これから本当のことを話すけど良い?」
絵を描く手をピタリと止めてこちらを見る。
部長もこちらを見ているようだ。
「ごめん、突然。でも話さなきゃいけないんだ。」
私は静かに頷く。折角勇気出して話題を振ったのにこんなに真剣なことになるなんて思いもしなかった。
「伊代が見た夢は実は本当のことなんだ。」
さらに話を続ける。
「公園で遊んでたけど、途中で離れ離れになっちゃったっていう話。それから、中学で会ったのに君が僕を忘れていたという話。全部本当なんだ。」
「・・・・」
「き....君は中学2年生の始め、交通事故で記憶をなくしてる。」
え?全く状況が読み込めない。交通事故?記憶をなくしてる?夢は本当だった?
頭の中が「はてな」で埋め尽くされて、パニックになった。
それでもまだ春は話を続ける。
「ずっと言おうと思ってた。でも、一緒に話してくれることが嬉しくて言えなかった。本当にごめん…」
部長も手を止めて一生懸命に話を聞いているようだ。
「....え?いきなり何?私が春との記憶をなくしてる?どういう事?嘘なら....嘘ならそう言って!今なら許せるから!ねぇお願い!...嘘って言って」
こんな時だけ何故かすらすらと言葉が出て来る。本当はこんなに強くあたろうなんて思ってないけれど、もう言ってしまったなら手遅れだ。恐怖と後悔で押し潰されて落ち着かなくて、原因不明の苛立ちが襲って来て、恥ずかしくて私は部室を飛び出した。
途中に部長が私を呼ぶ声が聞こえたけれど、振り返らずただただ足を動かした。
