颯瀬side




『おい!いそげぇ!門閉めんぞー!』


数メートル先の校門から大声を張り上げているのは
その暑苦しさから女子人気が皆無である
菊川(きくがわ)と言う生徒指導のセンセイ。


はっきり聞こえる怒号を
完璧に無視して学校に続く一本道をタラタラ歩く。

俺の頬を撫でる季節の空気は
若干の冷たさを(まと)って
どこか懐かしい気持ちにさせる。



すると、


バシッ


「あれ、颯瀬(はやせ)!今日は早いじゃん?」


と肩を叩いたのは
同じクラスで幼馴染の虎太郎(こたろう)

能天気なハッピー野郎だが、
頼りになる親友だ。


「うっせ。かぁさんが今日ぐらい
早く学校行けって蹴り飛ばしてきやがった。」

...ったく、朝メシも食ってねえっつーのに。


「ははっ。お前のかぁちゃん
超美人だけど怖えもんな。」


ケラケラ笑うコタロー。


「笑い事じゃねぇし。」


「おっと、女の子達集まってんじゃん。」


おっはー!なんて言いながら
女子に手を振るコタロー。


「知らねー。」

...ってか邪魔。



キャーキャー騒ぐ女子達の群れを横目に
しれっと校門を通過。


すると


「止まれ葦原(あしはら)!」


俺の前に立ちはだかったのは菊川。


...だる。


「なんやその服装は。
制服はビシッと着るもんやねん!
ビシッと!」

とジャージの襟を正して見せるが
難なくスルー。


「ほんまにアイツだけは!」


「センセ、颯瀬に何言ってもダメっすよ。
アイツがこの時間に登校してること自体、奇跡だし。」


「んなもん関係無いわ!
お前らもさっさと教室戻れー!」


女子達が俺に近づこうとするのを
菊川や他の先生が間に入って阻止し、校舎へと(うなが)す。
これはまさにボディガード代わりになって助かる。


もみくちゃになりながらも
コタローはニヤついた表情で


「颯瀬は学校来ない割に
ちゃんと成績優秀だからずりぃよ」

と言うが、周りが馬鹿ばっかなんだよ
と心の中で思う。


すると、

「菊川先生、あれ生徒じゃないですか?」

「ん?どこだ!」


立ち止まる教師達に続いて
生徒達も門の外を見る。


「ちょっと待って下さぁあい!!!」


...この声は

思わず立ち止まって振り向くと
コチラに向かって全速力で走るアイツの姿。


「高松ー!あと1分で遅刻やぞ!」
と口に手を当てて叫ぶ菊川。


「じゃ!!ギリギリセーフですよね?!
せんせ...」


...ったく。
そんなに走ったら、



「あっ!」

コタローがそれを見て声を上げる前に
俺の体は動いていた。


...ほらみろ。
お前って奴は、とことんコレなんだよな。


昔っからそそっかしくて
目が離せねえっつうか...


...ホラ、スカートの中見えそうじゃん。


こうやって俺が助けてやらねえと駄目なやつなんだよな。




フワッ



「きゃっ」




間一髪、転ぶ手前、俺の体で受け止めた。



「ったく。あっぶねーな。」



すると
ハッとした表情で俺を見上げるコイツは
当たり前のように



「あ、颯瀬!おはよ!」



...バーカ。

そんなキラキラした目で見上げんなよ。





お前だけだ
俺を困らせていいのは。