千柳様への思いを閉じ込めようと
 段ボールに
 畳んだ洋服を詰めていると

 私の左手が、ザワザワと震えだした。



 腕時計の画面が光って。

 大好きな名前が浮かび上がっている。



 ――千柳様からだ。



 どうしよう。

 通話ボタンを押して、大丈夫かな?

 私の意志が、揺るいだりしないかな?


 このお屋敷を出て
 千柳様との縁を切る覚悟が、
 やっとできたのに。





 左腕の震えが止まった。

 それなのに、
 心臓がうるさいほど震えだし。

 胸に手を当ててもおさまらない。



 大丈夫、大丈夫。

 私は千柳様がいない人生を
 生きられる。


 だって今の私には、
 やっと見つけた私の夢を
 応援してくれる人がいて。

 一緒にその夢を叶えようって、
 支えてくれるから。





 心を鎮めたくて、
 ベッドにばたりと倒れ込んだとき

 再び、腕時計が振動をはじめた。

 画面がゴールドに光り続けている。



 きちんと
 千柳様にお伝えしないとダメだよね?


 お屋敷を出て行くことと……
 
 今までお世話になったお礼も……