僕はそれに跨がり、青空へと一気に上昇する。すると街の様子がハッキリと見えた。

「あの噴水……」

街の中心にある噴水、そしてその近くにある可愛らしい小物が置かれたカフェ、それに見覚えはない。でも、僕が創造で生み出した記憶はある。

「ここ、僕が書いた本の世界だ」

この街の景色は、僕の小説家デビュー作である「闇を纏いし少女に光を」の作品の中だとわかった。このお話の内容は、道化を演じる少女が優しい青年に救われるお話だ。あの噴水は二人が初めて遊びに行く時に待ち合わせ場所に使っており、あのカフェは主人公が友達とよくお茶をするために使っている。

「でも、どうして本の中に入り込んでしまったんだろう」

本の中に自由に出入りできる人物は存在すると学校で学んだ。しかし、それは歴史に名を残すほどの強い魔力を持った魔法使いたちだけが手にすることができる禁断の魔法の一つだ。僕が習得できる魔法じゃないし、仮に習得できたとしても何十年もかかる。