そして、四年ぶりに俺たちは再開した。
ーー四月。
新品の制服にひらひらと舞い降りる桜の花びら。
俺の周りは「女子高生」と肩書きがついて舞い上がる女子でいっぱいだ。
ここはトランスジェンダー受け入れ可能の高校であり、制服が自由に選べるとかのハンデがある。俺はここで「男」として扱われることになった。
だから制服も男子用。夢に見た学ランだ。
入学前、俺はこの学校に訪れた。複数の先生たちと校長と俺で今後について話し合った。
俺以外にもそういう生徒が少しだけ居るらしい。
俺たちだけじゃないんだ!と嬉しくなった。
特に瑠奈は大変だったらしい。
性別がないから、更衣室やトイレはどちら用を使うのかとか、保体の授業はどちらに出席するのか……とか。
更衣室やトイレなどは男女別用とさらにXジェンダー用のも今、工事して造っているらしい。
保体は瑠奈がどちらでもいいと言ったため女子の方に出席するとか。
もっとトランスジェンダーやXジェンダーの人が入学してくれば、Xジェンダーの保健体育科も作る予定だとか。
「ユウ」
振り返るとセーラー服の瑠奈がいた。
「よ」
「久しぶり」
瑠奈は微笑む。
相変わらずちっこいままだ。
何も変わってなさそうだ。
笑い方も、仕草も、匂いも。
変わったところと言えば……色気が増したか?話し方がなんか、微妙にえろい。
瑠奈は手を後ろで組み、目を細めて言った。
「僕たち、死に損なったね」
そうだ。
俺はしっかり心肺停止の危篤状態にまで陥った。しかし、優秀で頑丈な俺の体は奇跡を起こしてしまった。
瑠奈は切ったのが浅かったため、普通に生きていた。
家出少女、心中図るも奇跡が!!とメディアでは大きく報道された。
病院、家、学校と、マスコミらが押しかけて大変だったそうで。その間俺はチューブに繋がれてスヤスヤ健やかに眠っていた。
いやでもまさか、目を覚ました途端に親父の拳が飛んでくるなんて思わないし、死に損ねた瑠奈は俺の無事を知らずに後追いするなんて思っても見なかったさ。それで飛び降りたところが花壇で骨折すらも出来なかったとメールで知らされた時は、正直笑った。
こいつ運良いのか悪いのか分かんねぇよってさ。
でも大事なときまでドジなところは瑠奈らしいなと思った。
中学校では一躍有名人で腫れ物扱い。それは瑠奈も同じだったらしい。
でもお互いに同じ高校に行くために頑張って勉強した。
「でも、死ななくてよかったと思うよ」
そう俺が言うと、瑠奈は安心したように笑った。
もしかしたら、瑠奈の切り傷が浅かったのは瑠奈の計算でやったことで、瑠奈は俺もそうすると思っていたのかもと思った。
だって瑠奈、まるでこうなることが分かっていたかのように笑うんだもん。
「合格おめでとう、伊宮くん、斉藤さん」
凛だった。
「お前もな」
「ありがとう」
瑠奈は緊張でかぺこぺことお辞儀を何回も繰り返していた。
「入学早々イチャイチャしちゃってさ」
いたずらっ子みたいに凛は俺たちの手を指差した。
無意識に手を繋いでしまっていた。
「凛ー」
「早くー」
そう呼んだのは数人の女の子たちだった。
凛は不登校の間、教育センターで授業を受けていた。そこで仲良くなった友達がいるらしい。
「今行くー」
凛は俺たちに手を振って行ってしまった。楽しそうでよかった。
「結局さ、僕、レズしゃなかったんだね。なんか可笑しいね」
「そっか。じゃあ俺はパン?で、瑠奈はバイ?」
「ふふ」
瑠奈は笑って言った。
「でもさ、関係ないよ。バイでもレズでも、僕は僕だ」
瑠奈ははしゃぐ他の生徒たちを薄ら見て言った。
「僕たち、やっていけるよね」
逃げずに世界と闘うと決めたから。
俺たちの行動は決して無意味じゃない。
きっとこの高校も受け入れ可能だからって誰もが俺らを理解してくれる訳じゃないんだろう。
でもそれでいい。
だってそれが俺たちなんだから。
俺たちがおかしい訳じゃない。悪い訳じゃない。
だから自分で終わらせる必要はないんだ。
生きていていいんだ。
夢だって無くったっていい。
今は目の前のことを頑張ってこなし続ければ、いつか。
「なんとかなるよ。俺たちなら」
「そうだね。生きよう、ユウ」
「生きろ、瑠奈」